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Peer-to-peer AirPlay(P2P AirPlay)

P2p airplay

 端末等の画面を大画面で表示させたい場合,ディスプレイや液晶プロジェクタ等の大画面提示装置とケーブルで接続する方法があります。

 教室にあるパソコンと大画面提示装置は置きっ放しですから,普段からケーブルで接続しておくことは普通です。

 しかし,タブレット端末のように持ち運びできることが持ち味のモバイル端末の場合,願わくはケーブルではなく無線で接続できると,なお便利です。そのような無線接続で画面を外部に出力する技術が,MiracastAirPlayとよばれる技術です。

 Miracastは,端末側(送信側)と大画面提示装置(受信側)をダイレクトに接続する画面転送技術です。実際には,大画面提示装置のHDMIに小型受信機を付け足して使うスタイルになります。つまり,Wi-Fi電波を使った仮想HDMIケーブルのようなものです。

 一方,AirPlayは,Apple社独自の技術で,同じネットワークに繋がっているApple TVと端末(iPadやMac)との間で画面転送するものです。Apple TVを大画面提示装置に接続して使います。ネットワーク接続は必ずしも無線でなくてもよく,有線ネットワークでも可能な点がMiracastと違います。ただし,ダイレクト接続はできず,何かしら既存のネットワークに接続することが必要でした。

 つまり,あらかじめセッティングされているApple TVに,外部から持ち込んだiPadの画面を転送表示したい場合,iPadがApple TVと同じネットワークに接続されなければなりません。しかし,組織や学校の無線LANは,パスワードが必要だったり,接続する機器の登録が必要だったりと,外部から持ち込まれた端末を接続するのが面倒です。そのためAirPlayすることも簡単ではなく,せっかくの機能も宝の持ち腐れであることが少なくありませんでした。

 また,そもそもApple TVを端末と一緒に外部から持ち込んだ場合,Apple TV自体をネットワークにつなげる方法も考えなければなりません。大画面提示装置,Apple TV,端末と機材は揃っているのにAirPlayによる画面転送が簡単にはできないのもストレスのたまる話でした。(モバイルルーターを加えてWi-Fiネットワークを作ったり,iOSのインターネット共有機能でネットワークを作成してApple TVをそこにつなげてしまうという方法が必要でした。)

 さて,AirPlayにもMiracastの様なダイレクト接続機能が待ち望まれていたわけですが,iOS8と最新のApple TVを使うことで,Peer-to-peer AirPlay(P2P AirPlay)として可能になりました。

AirPlay – iOS Deployment Reference
http://help.apple.com/deployment/ios/#/apd8fc751f59 

 このP2P AirPlayは,Wi-Fiの電波を使ってApple TVと端末の間で画面転送する機能です。Apple TVと端末が同じネットワークに繋がっている必要はありません。インターネットに接続されていなくてもApple TVと端末があれば画面転送できます。Bluetoothを使って端末がApple TVを探し,送信側と受信側がダイレクトに接続されるのです。

 ただし,P2P AirPlayが動作する条件は,最新のApple TVとiOS8デバイスのみ。早くに導入したApple TV(2012年以前)では残念ながら実現できません。

・Apple TV (第3世代 revA モデルA1469以降) with Apple TV ソフトウェア 7.0

・iOSデバイス (2012年以降) with iOS 8

・Mac (2012年以降) with OS X Yosemite version 10.10

 以上の組み合せでのみ可能です。どうしてもP2P AirPlayが利用したい場合は,潔くApple TVを買い直すのが手っ取り早い解決方法です。

 既存のネットワークへの接続がいらないので,AirPlayへの敷居が低くなったのは有り難いですが,現実にはネット接続がないとWebの画面を見せることもできないし,動画を再生して見せることもできないのではないか。そんな素朴な疑問も湧きます。

 また,無線LANの仕組みやAirPlayで試行錯誤したことがある人は,P2P AirPlayなんかしたらインターネット接続はどうなってしまうのだろう,と技術的な疑問を抱くかも知れません。

 簡単にいえば,Apple TVにP2P AirPlayするWi-Fiとインターネット接続するWi-Fi(もしくはキャリア回線)は併存します。

 よって,モバイルルーターやキャリア回線でインターネットに接続できる状態であれば,それに加えてP2P AirPlayが動作するので,ネット利用の様子も画面転送できるというわけです。

 ただし,唯一の例外があります。

 動画の全画面再生は,AirPlayの仕様上,Apple TVが引き受けてしまうのです。

 だからどうしたという感じですが,全画面の動画再生をApple TVが引き受けてしまうということは,Apple TVがインターネット接続されていなければならないという条件が加わってしまうということなのです。

 たとえば,Webページの中に動画が埋め込まれていた場合,Webページの中なら端末が再生しているのを画面転送して見ることができます。
 ところが,全画面アイコンをタップして大きくした途端,Apple TV側がその動画を直接ネットから読み込み再生しようとするため,Apple TVがネットに接続していないとエラーになるのです。知らないとビックリします。

 Apple TVをネット接続しない場合は,動画を全画面再生させず,可能であればピンチで拡大して再生するのが逃げ道です。

 実際に最新世代のApple TVを設定して,P2P AirPlayを試みようとすると,最初は正常に動作してくれないことが起こります。

 Apple製品を相手にしているとよく起こることですが,設定作業や設定直後はなかなか安定してくれず希望している動作をしてくれないことがあるのです。

 それはそれで大変困るのですが,いつの間にか安定して,嘘のように当たり前に動作するようになるので,最初のうちは辛抱です。

 しかし,こんなアドバイスも無責任この上ないので,安定するコツをお伝えすると,Apple TVの設定を変更したら,毎回再起動してみる,これに尽きます。

 「Apple TVの設定を変更したら,再起動すること

 P2P AirPlayが出来ると聞いて購入して設定したのに,一向にiPadやiPhoneにApple TVが現れないとか,リストを選んでも画面転送を始めてくれないとか,名前の後ろに(2)とか(3)とか変な記号がつくとか,悩ましい現象が次々起こります。

 そんな時は…Apple TVを再起動。Apple TVの名前を変えたら…再起動。AirPlayの入切を変更したら…再起動。パスワードを設定したら…再起動。

 もう,面倒臭がらずに一つ一つの設定でApple TVを再起動してください。そうすれば最終的には安定して使えるようになります。もちろん,設定は記憶されているので,電源を抜いたあと次回使う時に初めからということはありません。

 端末のリストから消えてしまった場合は,端末のWi-Fiを一度切って,一呼吸置いてから入れ直してください。裏でとても働いていると想像して,のんびり待つのがコツです。

動画作成アドイン Office Mix

 米国時間5月6日にマイクロソフトは「Meet Office Mix」というブログ投稿で,PowerPoint用の無料アドインソフト「Office Mix」の公開プレビューを開始すると発表しました。

 このOffice Mix,名前からは想像しにくいですが,動画作成アドインです。PowerPointスライドをベースにした説明動画を作成できるのです。

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 従来までもPowerPointスライドにはナレーションを録音して付けることはできました。自動再生させればスライドそのものを動画として利用することはできたわけです。

 このOffice Mixを使うと,スライドを見せながら説明している状況そのものを録画できます。つまり,ペンツール等を使った書き込みや説明している本人の姿を動画に盛り込むことができるのです。

 昨今,カーン・アカデミーやMOOCSなどの学習プラットフォームが注目され,動画教材の可能性が広く知られるようになりました。教師が使える道具として動画作成ツールへのニーズも高まっているところです。

 こうしたニーズに応えるツールはいくつかありましたが,最も使われているプレゼンテーションツールであるPowerPoint自体にそのような機能が追加されれば,一番便利です。

 実はかつて「Producer for PowerPoint」という動画作成アドインがありましたが,かなり前に提供を停止して以来,長いことその代替がありませんでした。

 ようやく,最新版のOffice2013で動画作成を実現するアドインが「Office Mix」として復活したというわけです。

[追記]
 ここでは動画作成の機能だけ注目してご紹介していますが,実際にはインタラクティブな教材をつくる機能も含まれているのでMixという名前がついています。

 Office Mixは,インストールするとPowerPointの一機能のように「MIX」リボンとして追加されます。もちろん日本語版Office2013にインストールできます。

 機能としては,作成したスライドに対してペンツールを使いながら録音録画ができる「レコード」機能を始め,問題を追加できる「クイズ」機能,パソコンの操作画面を動画と静止画で記録できる「画面キャプチャ」機能,その他「プレビュー」機能,「アップロード」機能,「書き出し」機能が用意されています。

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 表示は英語ですが,使い方はシンプルで一度覚えてしまえば児童生徒学生でも簡単に利用することができます。グループ活動の発表作品づくりにも利用できそうです。

Office for iPadとOffice365

 Microsoft Officeは,ワープロソフト,表計算ソフト,プレゼンテーションソフトの3本柱を含んだ事務用ソフトのセット(スイート)として今も昔も大きなシェアを占めています。

 Word, Excel, PowerPointと名付けられたソフトを使いこなせるなら,ベースとなる事務能力がそこそこ備わっていると見てよいことになりますし,そのための資格やスクールがあることからも重要度の高いソフトであることは明らかです。

 しかし一方で,Officeソフトの操作を習得することが目的化してしまう情報教育の迷走を招いたことやバージョンアップを繰り返す中でソフト自体が肥大化して使わない機能に金銭を払っている等の状況に嫌気が差している人々も少なくありません。

 大学の情報基礎科目は実質的にMicrosoft Officeの操作演習となり,大学教員がOfficeインストラクター化しているという揶揄は,今も変わらずといったところです。

 とはいえ,これほどまでに普及してしまったMicrosoft Officeは,情報端末上で文書ファイルを作成をしたり編集交換するためのインフラになっているといってもよく,Officeの標準指定フォントである「MS明朝」や「MSゴシック」ともども,他の代替を探すことは大変難しいのが現実です。

 よって,Microsoft Officeは,それを使う使わない,選ぶ選ばないは別として,その存在自体が大きな影響力を持っているということを理解しておく必要があります。

 Microsoft Officeの存在が与える影響はどれほどなのか。それを理解するには,端末を購入・導入する事例を見ると分かりやすいでしょう。

 たとえば,学校に導入する教育用パソコンにMicrosoft Officeが合わせて導入される例は枚挙にいとまがありません。
 一部にはジャストスマイルやキューブ(ハイパーキューブ)などの統合ソフトで代替する例もありますが,小学校ではDr.シンプラーという子供向けアドインソフトとOfficeを組み合わせるといった例もあります。

 また,佐賀県が県立高校入学で必須購入としたタブレット端末の機種選択の際も,Microsoft Officeを利用できる端末であることが大きな決定要因であったとも言われています。

 個人ユーザーが購入するパソコン/タブレット端末の販売動向においても,Officeが搭載された安価なタブレット端末の売れ行きが好調であるというニュースがあるなど,やはりMicrosoft Officeの存在は無視できないようです。

 さて,Microsoft Officeが重要な存在であることは分かりましたが,いままでこの重要なソフトが使えない端末がありました。その代表がApple社「iPad」でした。

 タブレット端末普及の立役者といってもよいiPadですが,Microsoft Officeが存在しなかったために,いろいろと不遇な扱いを受けてきたことも確かです。たとえば先に見た,端末の購入や導入の際の選択肢として吟味されながらも,最終的にはOfficeが無いために選から漏れることも少なくありませんでした。

 データの共有という点でもOfficeの無いiPadでは問題がありました。一般的なデジタル文書はMicrosoft Officeで作成されたファイルであることが多いのですが,これをメール等で受け取ってもiPad上では安心して開くことができなかったのです。
 逆にiPad上で文書データを作成しようとしても,他のソフトを使用して形式変換したものを転送する方法になり,意図した通りに先方とデータ共有できるかどうか,悩みの種が尽きない状態でした。

 iPadにもOffice互換アプリというものや,Apple社純正の事務用ソフトスイート「iWork」が用意されていましたが,Microsoft Officeを中心に作業が進んでいる環境との相性には不安も多かったのです。

 2014年3月27日(米国)で,Microsoft社が発表会を開きました。新しいCEOによる新たな会社方針と具体的な一手を発表する場でしたが,そこでとうとう「Office for iPad」が登場したのです。

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 ご覧のように,App StoreにiPad用のWord, Excel, PoerPoint(,そしてOneNote)が並ぶ専用画面が登場しました。多くの人々が待ちに待っていたニュースでしたので,世界中から大きな反響があり,あっという間にダウンロード数ランキングもトップを占めています。

 これらは無料で配布されますが,このままだとビューア機能だけとなり,編集・保存などには「Office365」と呼ばれる月額制アプリ利用サービス(購読型またはサブスクリプション型の料金とも言われる)の契約が必要になります。アプリ買い切りの購入方法はありません。App Storeではアプリ内課金の方式で個人・家庭向け「Office365 Home(年間一括払い)」を購入することができます。

 ところが,残念なことに現時点で日本での提供は見送られるとの発表がありました。

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 ご覧のように日本のApp StoreにはOneNoteだけしか提供されていません。

 アプリ利用に必要なOffice365というサービスが,日本では法人向けしか展開されておらず,個人・家庭利用はソフト買い切り制のみで用意が無かったためです。そのため準備が整うまで,アプリ自体の提供も見送られたと推察されます。

 (日本マイクロソフトのWebサイトでOffice365を知ろうとすると最初は全体がよく見えず,どういうサービスなのか理解が難しかったりします。「Office 365 ナントカ」以外にも「Office ナントカ 2013」と書かれたものが乱立しているからです。基本的には365と付いているものが月額制あるいは年間一括払い制のソフト購入方法で,2013と付いているものは従来の買い切り型の購入方法と理解しましょう。世界はOffice365月額制に移行しているというのが最近の動向です。)

 iPadにOfficeがやってきたことは嬉しいニュースではありますが,日本ではしばらく個人・家庭向けの利用はお預けということになりそうです。

 ただし,すでに法人向けOffice365の契約でWindows版Officeを利用しているユーザーは,iPad版を利用する権利があります。米国のApp Storeからアプリをダウンロードさえできれば,アプリ自体は国際化(日本語化)されているので,契約アカウントを入力することで編集・保存機能をアクティブ化できます。

 仮に日本で販売が始まっても,もともと個人・家庭向けではOfficeの商業利用は認められていませんので,初めから商業利用を含む形でOfficeを利用したいと考えている場合「Office365 ProPlus」というサービスを購入してしまう方法もあります。これなら現在でも日本で契約することができます。金額と相談して決定しましょう。

 教育機関での導入の場合も,教育機関向けOffice365を利用するのが基本となります。ただ,Windows端末であれば従来の買い切り方法も残されているので,iPadのためにわざわざOffice365という購読型の契約をすべきかどうか悩まれる関係者もいると思われます。

 この辺は,ソフトウェア利用や購入に関してどういう考え方を取るか次第です。

 アカデミック版であるOffice Professional Academic 2013が,2万8,381円。学校のパソコンは1台につき6.5人くらいの割合なので,これを6年くらい使う想定で考えて計算すると1人につき年額728円程度になります。だいぶ乱暴ですが,見当をつけるための数遊びとお考えください。

 教育機関向けOffice365は学生1人につき月230円となり,年額で2,760円となります。教員は月額410円なので年額4,920円。買い切りの方が費用を断然抑えられると考えたくもなりますが,実際には,パソコンだけでなくiPadも利用できたり,バージョンアップあれば自動で行なわれたり,継続的なサポートが受けられたりとOffice365にもメリットがあると考えることもできます。

 学校においてもこれからはICT環境が持続的に用意されなければならない時代であることを考えると,Office for iPadの登場とともに,Office365といった形のソフトウェア購入方法とそれを利用するための学校教育費用の組み方や使い方について,真正面から検討をしていく必要がありそうです。

 最後に,Office for iPadの登場は,そんなに良いことなの?という疑問について。

 Office for iPadに対する評価は様々で,米国のApp Storeのレビューも予想外の出来の良さを評価するものがある一方で,「いまさらOffice?」「サブスクリプション(月額制Office365)なんていらない!」「ビューア機能といってもアプリを抜けたら再度読み込み直しになって不便!」「iWorkで十分」「買い切り型でなきゃいらない」などなど,手厳しい意見もたくさん書き込まれています。

 個人的にはアプリ買い切り型が欲しいという意見には賛同しますが,ソフトウェアビジネスが持続的なものになるためには仕方ないかなと思っています。突然「開発もサポートもやーめた」なんてことが,遅かれ早かれくるとしても,できるだけ長く使い続けられるように継続して欲しいですし,同時にデータ形式などがオープンであることも大事と思います。

 Microsoft Officeでなくても良いソフトはたくさんありますが,「Officeもある」ということが大事なのであって,その上で好きな選択肢を選べるようになったことが「Office for iPad」の重要な意義と思います。幸いOffice for iPad自体の評判は悪くないようですので,今後はまだ不足している部分が改善されて,より良くなることに期待したいと思います。